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長く生きているということは [本]

ここ数日、立て続けに伊坂幸太郎さんの作品を読んだ。
フーガはユーガ
死神の浮力
マリアビートル
の三冊。

どれも伊坂さんらしい緻密さで楽しめたけれど、マリアビートルはグラスホッパ―の続きだけあって、この作品だけ読むと読み終わったあと、「え、ちょっと待って、もう少し説明を」と思ってしまった。
登場人物の何人かが意味深なまま、退場する感じというか。
それを感じたのは、槿(むくげ)と塾講師鈴木で、どちらもグラスホッパ―の登場人物なので、グラスホッパ―を読み返したあと、マリアビートルを読んだ方が、へんにひっかからず疾走感だけ味わえてよかったのかも。

と、不満があるように書いてしまったけど、そうではなくて、作品の持っている情報量の多さに圧倒されて、読んだ後すぐにもっと深く読み込みたい気持ちにさせられるというか。
いや、もしかして、ひっかかりが良さなのかも…。
とにかく、初読では理解が追いつかず消化不良だったので、パラパラともう一回流し読んだけど、やっぱりすごい。

最初のほうで王子が、「昔の知り合いなんて信用しちゃ駄目だよ。どんな恩があったって、みんな忘れちゃうんだから。信頼で成り立つ社会なんてさ、だいぶ前に消えちゃったんじゃないかな。もとからなかったのかもしれないし。」
と言った台詞が、最後の方の木村と繁の会話で、
「無理な頼みだったのに、悪かったな」
「木村さんにはお世話になりましたから」
というシーンと見事に対になっていて、そのあとの数ページの木村の台詞はめちゃくちゃかっこよくて、すっきりする(引用しちゃうと、ネタバレになっちゃうのでできないけど)。
王子と木村は、ほかにもいっぱい対比があって、伊坂さんのうまさ爆発で震える(語彙死んでる…)。

あと、放射能とか感染症(インフル)の話がするっと挿入されているのもすごいなぁと思った。作品が書かれた時点では、東日本大震災は起きていないし、今のコロナの状況などもちろん知る由もないのに。

佐々木敦さんの解説も良い。
伊坂幸太郎は「勇気」の小説家である。『マリアビートル』は、たとえ満身創痍になっても必死で「悪」に立ち向かおうとする、ちっぽけだが偉大な「勇気」が描かれた作品である。

お勧めです。(ただし、結構暴力描写があるので、そういうのが嫌いな人にはおすすめできないので、amazonレビューなどもご参考に)


マリアビートル (角川文庫)

マリアビートル (角川文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/10/09
  • メディア: Kindle版



ブラピが出て、映画化されるそうだけど、これをどうやって??
ただのバイオレンス映画になりませんように。
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きちんとした仕事 [本]

随分前にピエール・ルメートルの「その女アレックス」を読んだ。
評判に通りすごかったけれど、この本を「面白かった!」と人に勧めるのはちょっと抵抗があって、そのままにしていたのだけれど、先日、図書館で「悲しみのイレーヌ」と「傷だらけのカミーユ」を借り、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ3部作を読了したので、やはり感想を。

まず、私が最初に読んだ「その女アレックス」は、3部作のうちの真ん中にあたります。
悲しみのイレーヌ、その女アレックス、傷だらけのカミーユという順で読むのが正しいのですが、なんで真ん中から読んでしまったのかというと、日本語訳が出たのが「その女アレックス」が最初だからなのです。
加えて、3部作のなかで一番評価が高かったこともあって、一冊読んでみて面白かったら3部作全部読もうというくらいのつもりでいたのですが、冒頭に書いた通り「面白かった!」と手放しでいうにはちょっと抵抗があり、残りを読むのがかなり遅くなってしまった。

前置きが長いですが、アレックスは、描写がすごく残虐だったんですよね。
読んでいて気持ちが悪くなったし、これを「面白い」と人に勧めたら、ちょっと人間性が疑われるかなと心配になるくらい。でも、ぶっちゃけ面白い。読後、思わず最初から読み直してしまったぐらい。
つまり、アレックスは、伏線ばりばり、どんでん返してんこ盛りのミステリで、長年の読書が祟り素直さを失くしてしまった私も見事にどんでん返されたという作品だったのです。

で、時間をかなり置いてから、「悲しみのイレーヌ」を読んで、またしてもどんでん返された(そして、やはり残虐だった)。
アレックスの著者だから、何か仕掛けがあるぞと思っていたし、3部作の真ん中を読んでしまっているので、登場人物のその後も知ってしまっている状態でありながら、してやられた。
「は~、そう来ましたか」という感じ。

その点、さすがに完結編の「傷だらけのカミーユ」は、前作、前々作ほどの意外性はなかった。
とはいえ、仕掛けはあるし、ちゃんと順番通りにそれなりの時間の間隔を置いてから読んでいたら、騙されていたかも。

残虐な描写はありますが、お勧めです。で、読むときは、やっぱり1部の「悲しみのイレーヌ」から読むことをお勧めします。
事件は派手ですが、捜査が地味なところもいいなと思います。そして部下のルイがすごく良い。
ただ、海外小説の苦手なところは、名前が覚えにくいところ。
フランスではグエンという名前、佐藤とか田中みたいによくある名前なんだろうか。別人でグエンが2人出てきたらもうお手上げ笑(3作目でカミーユの友人の警視と法医学者が同じグエンだった)。

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タイトルの「きちんとした仕事」は、「悲しみのイレーヌ」の原題「Travail Soigne」からとりました(最後のeは、フランス語のアクサン・テギュという記号「´」がついています)。
日本語のタイトルはすべて登場人物の名前が入っていますが、原書ではそういうことはないみたいですね。
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消えゆくものと消え去らないもの [本]

小川洋子さんの「密やかな結晶」読み終わりました。

うーむ、すごい。
先日は、漫画がすごいと書いたけど、やっぱり小説もすごい。

リボン、鈴、エメラルド、切手…。さまざまなものが徐々に消滅する島。そこに暮らす人々は、やがて消滅したものの記憶さえも失くしてしまう。記憶を失くしてしまえば、消え去ったものを思って嘆くこともない。人々は何が消滅しても、適応して淡々と生きている。一方で、島には記憶を失くさない人もいた。彼らは、記憶を狩る秘密警察の目を避けて暮らしている。

なぜその島で消滅が起こるのか、秘密警察とはどんな組織なのか。説明はない。
消えていく記憶、失くなっていく自分自身に抗おうとしても、「消滅」は容赦がない。
最後はどうなるんだろう、一体どんな風に物語は着地するんだろう。
最後の数ページまできても、想像できない。
読み終わったあとも実感がない。まるで今まで読んでいた物語が、ラムネのようにふわっと溶けて消えてしまったような不思議な読後感。

決して分かりやすくはない。
どういう感想を持っていいかもよく分からない。
けれど、読んで良かったと思う。
なんだろうな、小説ってすごいと感じた。

なんと米アマゾン・スタジオが映画化するらしい。
そして、舞台にもなっていたらしい。
えー、この世界観、小説以外で表現できるかな~。
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気になる本 [本]

最近、気になっている本の列挙。備忘録程度に載せときます。テキストリンクはamazonです。

●逆ソクラテス
伊坂幸太郎著
伊坂幸太郎さんは昔ハマって結構読んだ…けど、しばらくご無沙汰していた作家さん。
暴力描写や、やたらと恐い奥さんが出てくるのが、なんとなくしんどくなって。でも、東日本大震災が起きてから以降、作風が以前の私の好きだった伊坂さんに戻っている気がして読んでみたい。「AX」はそれほどそそられないのだけれど。
 ↓
読みました!
伊坂さんの小説にしては、さらりとした印象。ただ、もう一度読み直すと違う印象になるかもしれない。ストーリーの先を追うことに引っ張られて、細部の仕掛けに気付いてないかもという気がする。


●兄の終い
村井理子著
読みたい、けれど、読むと落ち込みそうな気もして迷う。私の父が亡くなったのは、少し早い気もするけど年齢的に言えば、予感するものはあった。でも、あんなにあっけなくいってしまうとは思っていなかったので、かなりショックだった。村井さんの場合は、お兄さんだし、疎遠になっていたようだし、全然状況は違うのだけれど、突然家族を亡くした経験のある身にとって迫ってくるものがありそう。


●居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)
東畑開人著
京大卒の心理学のハカセが書いた本。とだけきくと、硬そう…と思いきや、どうやらそうではないらしい。ケアとセラピーの違いすら分かっていないけれど、読んでみたい。


●あやうく一生懸命生きるところだった
ハ・ワン著 岡崎 暢子訳
タイトルが秀逸。私も放っておくと一生懸命生きてしまう(笑)性質なので、非常にそそられる。表紙のパンツ一丁で寝そべっている絵もいい。


●餃子のおんがえし
じろまるいずみ著
食べ物をおいしそうに書く人と、音楽を文章で表現できる人は尊敬しているので、どんな感じの文章なのか気になる一冊。
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賢さの種類 <82年生まれ、キム・ジヨン> [本]

図書館で予約していた「82年生まれ、キム・ジヨン」を読み終わりました。

どんな内容の本かは、チラチラと耳に入っていたのですが、実際に読むのと読まないのとでは大違い。話題になった本は、期待値が高すぎてがっかりすることもありますが、この本は読んでおくべき本でした。

気づかないふりをして(または深く考えないようにして)やり過ごしてきたたくさんのことが、ある瞬間に決壊して、精神のバランスを崩してしまう。
ちょっとした鬱憤晴らしの一言が、ラクダの背を折る一本の藁のように誰かの心を壊すこともある。

この本はフェミニズム小説と言われていますが、私にとっては女性としての共感の部分よりも、「無自覚でいることの怖さ」や「自覚してしまう怖さ」を感じた小説でした。

生存戦略的に言えば、無自覚でいる方が実は賢いのかも…と思ったりもするけれど、気づいてしまったあとが怖いし、いつまでも無自覚で居続けられる人はそう多くないだろうしなぁ。


82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

  • 作者: チョ・ナムジュ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/12/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


ちなみに、ちょっと前(今もかも)の韓流ドラマには、弟の学費のために優秀なお姉さんが進学をあきらめたり、「そんな人現実にいるの?」というぐらい息子を溺愛する母親や、厳しすぎるお姑さんに黙って従うお嫁さん、子供(とくに男の子)ができるようにと占い師や薬に頼ったりするシーンなどが出てくるのですが、多少の誇張はあったとしても、韓国にはそういう“空気”が実際にあった(ある)のだな、ということが分かりました。
でも、女性大統領が誕生したり、戸主制度(日本の戸籍みたいなもの)を廃止したり、韓国は「動く」となったら速いですね。

日本でも夫婦別姓が議論されていて、私はどっちでもいい派なのですが、でも実施されるとなると、「子供の姓はどっちにするの」とか「別姓が選べるのに夫の姓を選ぶのは権利の放棄ではないか」とか、別のストレスや断絶が生まれるんだろうなぁなどと考えてしまいました。
「82年生まれ、キム・ジヨン」にも婚姻届けを出す場面で、「子の姓と本貫(※)を母親の姓と本貫にすると合意しましたか」という、はい・いいえで答える質問項目が登場する。選べるようになったことはいいことのように思うけれど、2008年に戸主制度が廃止されてから、実際に母親の姓を受け継いだケースは2015年時点で毎年200件程度なのだそうだ。
作中のキム・ジヨン氏も「まだ父親の姓を継ぐ人がほとんどではあるんだよね。母親の姓を継いだら何か特別な事情があると思われるでしょうね。説明したり訂正したり、確認したりすることが増えるだろうな」と、「いいえ」に丸をつけている。しかし、自分で「いいえ」に丸をつけることに、どことなく虚しさを感じている。

(※本貫:祖先発祥の地名。韓国では金、李、朴、崔、鄭など一部の姓に人口が集中しているため、近海金氏、慶州金氏などと、本貫と姓を組み合わせることで氏族を区別するんだそうです。)
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ところで、解説ではっとさせられたのですが、この小説、主人公キム・ジヨン氏の夫、チョン・デヒョン氏以外の男性は、全員名前が出てこないのです。女性の登場人物はほぼ全員に名前がついているというのに。この書き方はすごいなと思いました。

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この流れとは全然関係ないけれど、日本でも離婚のとき旧姓に戻すか、戻さないかを選べるということは知っていましたが、その際に旧姓ではない別の姓を付けることもできる、とこの前友人から聞いて、それも驚きました。

思ったのですが、自分で好きに選んでもいいのなら、実は苗字っていらんのかも?って気もしますよね。そしたらどっちの姓を使うかなんてことに悩まなくてもよくないか?
みんなちがってみんないい(byみすず)、みたいな。ちがうか笑。
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古い辞書の役割 <太宰治の辞書> [本]

北村薫さんの「円紫さんと私」シリーズが好きで昔よく読んでいたのですが、この間、本屋でふと目について最新刊(文庫版)の「太宰治の辞書」を購入してみた。

だいぶ読み進んでから、「あ、これ前に図書館で借りて読んだ…」と思い出したのだけれど、でも買ってよかった。

主人公の「私」の、本や、本にかかわる人に対する愛情が伝わってくる。
「辞書はなるべく新しいものがよい」と思い込んでいたけれど、昔使われていたことばを調べるには当時の辞書が要るんだなぁ。
古いからといって、役に立たなくなるわけではないのだ。

太宰治の辞書 (創元推理文庫)

太宰治の辞書 (創元推理文庫)

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/12
  • メディア: 文庫



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素晴らしきこの世界 <酒場っ子> [本]

昔から割とお酒は好きな方だ、と思っていた。
毎日の晩酌にビールを飲んでいたこともある。
日本酒が好きかも…と思ってみたこともある。

しかし、この本を読んでようやく腑に落ちた。
酒が好きというよりも、私は「酒の席」が好きなのだ。

酒場っ子

酒場っ子

  • 作者: パリッコ
  • 出版社/メーカー: スタンド・ブックス
  • 発売日: 2018/05/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


 人はなぜ酒場に通うのか?
 安上がりにてっとりばやく酔っぱらいたいならば、家で飲めばいい。純粋に「美味」を追求したいならば、専門店や高級レストランに行けばいい。それでも我々酒飲みは、今夜も飽きもせず、飲み屋の赤ちょうちんに吸い寄せられてしまいます。
 それは、酒場というほんの少しの「非日常」が、職場と自宅という別々の日常の場をスムーズにつなぐ潤滑油になるからではないでしょうか。ひとり静かに飲む、仲間と大いに笑う、老舗の空気に浸りながら、チェーン店でとことん気楽に。人により、好きなお店の条件はさまざまで、だからこそ酒場はおもしろい。


そうか、そうか。そうなのだ。

それでいくと、私が好きなのは、ふわっとほろ酔いで、何を聞いても楽しくて面白くて、その場にいる人がみんな笑ってて、おいしい料理があれば、なおよしという感じかな。
というわけで、やっぱり「店」というより、酒の「席」というか「場」が好きなもよう。
って、つまりは酒の場→酒場→酒場っ子、バンザーイ!ってことですね。

しかし、著者のパリッコさん、「本書は書下ろしです」って大衆酒場愛が凄すぎです(笑)
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本は、世の中の酸素だ <モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語> [本]

会社帰りに行きつけの(?)本屋さんで、ひさびさ(でもないか)に衝動買いした本。


モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語

モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語

  • 作者: 内田 洋子
  • 出版社/メーカー: 方丈社
  • 発売日: 2018/04/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



「モンテレッジォ小さな村の旅する本屋の物語」

通勤中に読んでいたのだけれど、思わず胸が熱くなった。
イタリアの山奥の小さな村に、本を愛し、本を届けることに命を懸けた人たちがいた。
これといった特産物のない村、あるのは男たちの「腕力」だけ。
本文で「いいな」と思った箇所をいくつか抜粋すると…。
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「男手を必要とする農地へ、出稼ぎに行ったのですよ。景気が悪くなると、余所にも働き口はなくなった。村には特に売る産物もありませんでした。それで、本を売ったのです」
「だから、モンテレッジォの収穫祭は本なんです」
「父もそのまた父も、私たちの先祖は皆、古本を売りに歩いて生計を立てたのです」

自分たちの強みは、毛細血管のようにイタリアの隅々まで本を届けに行く胆力と脚力です。本は、世の中の酸素だ。皆で手分けして、漏れなく本を売り歩こう。それには、まず人材だ。

村の行商人たちは、子供たちに本売りの魂を教えた。
(中略)
六歳の子が重い籠を背負って、夜の山道を一人で歩く姿を思い浮かべて胸がいっぱいになる。
「モンテレッジォ人たちがしないで、誰がする。文化は重たいものなのです」
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著者内田洋子さんの文章と、ふんだんに差し込まれる写真とともに、私も本の行商人たちの歴史を旅している気分になった。

もしも本屋で見かけたり、購入したなら、タイトルが書いてある幅広の帯部分を、そっと外してみてほしい。

そこにあるのは、周囲の山々の緑にのみ込まれるようにしてあるモンテレッジォ。
その立地に圧倒され、改めて見返し(※正確には、帯のそで部分でした)に書かれた村の碑文に心打たれるにちがいない。

(追記)
この本はフランス装といって、表紙の四辺(天地左右)を内に折り込んで、化粧断ちした糸綴じの中身をくるんで仕上げる製本方法が使われています。
あまり見ない製本なのですが、製本技術が今のように進んでいなかった時代には、フランス装のアンカット(本文の紙が断裁されていない)本が当たり前だったようです。
※この本の本文はちゃんと断裁されています。

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生きたお金の使い方 [本]

時代物はあんまり読まないのですが、
高田郁さんの「銀二貫」読みました。

時代小説といえば、舞台は江戸の町が多いのですが、
「銀二貫」は江戸時代の大坂が舞台。
天満、天満橋、八軒家、心斎橋…。
知っている地名がいっぱいでてきて、それだけでも面白かったです。

「なにわの商人」の気概と
浪花節的な人情があふれていて、読後感さわやか。
終わり方が良かったです。
ちょっと前に、NHKでドラマ化されたそうですね。

ただ、一個だけ気になったのは、最初のほうによく出てくる文中の体言止め。
自分ではバンバン使う癖に^^、小説での体言止めはなんか違和感があるのです。。

それはともかくとして、この本は、
Osaka Book One Project(OBOP)という試みが適用されているそうです。

Osaka Book One Projectとは、
大阪の本屋と問屋が力を併せて、大阪のお客様に向けて絶対にはずさない1冊を選び、その本の収益の一部で、大阪の児童養護施設の子供たちに本を寄贈する試み、だそう。

最近、三浦しをんさんの『仏果を得ず』もよく本屋で見かけるなぁと思っていたら、
これまたOBOP選定書なんですね。
だいぶ前に読みましたが、たしかに大阪の文楽の世界が舞台でした。


銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

  • 作者: 高田 郁
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/08/05
  • メディア: 文庫



仏果を得ず (双葉文庫)

仏果を得ず (双葉文庫)

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2011/07/14
  • メディア: 文庫


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余談ですが…、高田郁さんって、読み終わるまで男の人だと思ってました。
しかも、名前の読み方も“いく”さんだと思っていたら、違った。“かおる”さんなんだ。
そういわれれば、馥郁(ふくいく)たる香りとかで使うもんね。
おっと、人名では、あや・か・かおる・たかし・ふみ とも読ませるのだそう。
なるほど~。

三本勝負 [本]

最近、図書館に行っても読みたい本がない。
けれど、何も借りずに帰るのもなんだかなぁ、と思うので、
ぐるぐる書棚を巡って、適当に本を選ぶ。

■そんな感じでインスピレーションで選んだ中で、
石田千さんの「あめりかむら」という短編集の中に入っている
「大踏切書店のこと」という短編はよかった。

あめりかむら



下町の、古本屋を兼ねた小さな居酒屋に集まる人たちの、
なんてことのない、日々の暮らしがさらっと書いてあるだけの物語。

その中に出てくる、ハルさんという90歳のおばあさんが良い。
毎日、雨の日でも近所のその居酒屋へやってきて、コップ酒を1杯飲む。
作中の台詞は、居酒屋の店主に向けた “ふみさん 帰る” という一言だけ。
そして、コップの中に代金の500円玉をポトンと落として帰っていく。

お、今、見返しの紹介文を読むと、石田千さんは「大踏切書店のこと」で、平成13年の第一回古本小説大賞受賞してるのか(古本小説ってなんだろう…って気もしますが)。
そして、なるほど、短編集のタイトルにもなった、「あめりかむら」は芥川賞候補か。
私としては「大踏切書店のこと」のほうが好みだったけどなぁ。
でも確かに表題作になってるだけあって、1作目は不思議な空気感でなんか引き込まれた。

というのが1本目。

■続けて読んだ本は、よしもとばななさんの「さきちゃんたちの夜」
よしもとばななさんの本は、私にとって、スピリチュアルな感じがピタッとはまるときと、
「うーむ…よくわからん」というときの差が結構ある。

さきちゃんたちの夜



昔の作品、「TUGUMI」とか「キッチン」とか「海のふた」あたりは良かったけれど、最近は「うーむ…」のほうが多いという印象で、「さきちゃんたちの夜」も、短編集の1本目が「うーむ…。。それで?」という感じだったので、期待せず読み進めたら、3本目の「癒しの豆スープ」は割とよかった。

小さなタバコ屋さんを営んでいた老夫婦が、週末、店に立ち寄る人のために、無料の豆スープを配る話。(ちょっと、「大踏切書店のこと」に雰囲気が似てる)

その中の、「(略)……そして、俺が思うに、無料っていうのは、ほんとうはとても残酷なことなんじゃないのか? 結局はそれを相手が背負うことになるだろう。自分の得たものを。それはゆくゆく積もりつもって、その人を蝕むんじゃないのか?」という台詞は、ちょっとはっとしたなぁ。

■ラストは、伊坂幸太郎さんの「残り全部バケーション」
伊坂幸太郎さんも、初期の作品はよく読んだけど、最近はめっきりご無沙汰している作家さん。
「魔王」あたりからちょっと感じてたけど、救いが見えないなんともいえない重苦しい感じと、私にはよくわからん暴力描写がしんどくなって。。
そういう意味では、「残り全部バケーション」は、初期のころの軽やかな感じがあった。
けど、終わり方がなぁ。「え!そこで終わるの??」とびっくりしてしまった。
(やってみたいなぁ、という終わり方で笑ってしまったけど & 1話目を読めば、ラストがあんなバシッと遮断するように終わっていても、希望のある終わり方ではあるけれど)


残り全部バケーション



思い出したけど、伊坂幸太郎さんの「ガソリン生活」は、
小粒な感じだけど、軽い感じでよかったな。
これは、わりとお勧めです。

ガソリン生活



***
以上、勝負してないけど、三本勝負(+1)でした。

ちなみに、三本勝負っていうのは辞書には載っていなくて、三回戦って勝敗を決めることというのは、三番勝負っていうんですね。
まぁ、本の感想だし、勝負してないし、いっか、って感じですが。

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